(続き)
二つ目の種類の放射性元素が燃料棒の外で生成される。最も大きな違いは、これらの放射性元素はごく短い半減期を有し、急速に崩壊し非放射性元素に分裂するということだ。おおよそ秒単位の話だ。そのため、もしこれらの放射性元素が環境中に出たとしても、そう、たしかに放射性元素は放出されたが、しかし、それは全く危険ではない。あなたが“R-A-D-I-O-N-U-C-L-I-D-E”と書いている間に、それらは非放射性元素に分裂し危険ではなくなるのだ。それらの放射性元素はN-16、窒素(空気)の放射性同位体(型)だ。あとはキセノンのような希ガスだ。しかしそれらは何処から来るのか? ウランが分裂するとき、中性子を生成する(前述のとおり)。ほとんどの中性子は他のウラン原子に衝突し、核分裂連鎖反応を継続させるが、一部は燃料棒を離れ、水分子に衝突する。そこで、非放射性元素が中性子を捕まえ、放射性元素に変わる。上述のように、それは速やかに(秒単位で)中性子を放出し、元の美しい自己を取り戻す。
二つ目の種類の放射線は、後で環境中に放出された放射性元素について話すときに非常に重要になる。
福島で何が起きたのか
ここで主な事実をまとめたい。日本を襲った地震は原子力発電所の設計値よりも5倍も強い(リヒタースケールは対数的に働くため、発電所の設計値である8.2と実際の8.9の間は5倍である。0.7ではない)。日本のエンジニアリングに対して最初に賞賛すべきところで、全てが持ちこたえた。
8.9の地震が襲ったとき、原子炉は全て自動停止プロセスに入った。地震発生から数秒後には制御棒が炉心に挿入され、ウランの核分裂連鎖反応は停止した。今や、冷却システムが残留熱を取り除かねばならない。残留熱負荷は通常の運用条件の熱負荷のおおよそ3%だ。
地震は原子炉のゲイブ電力供給を破壊した。これは原子力発電所の最も深刻なアクシデントの一つで、発電所の停電はバックアップシステムを設計する上で最も注意される部分だ。電力は冷却ポンプを稼動させるのに必要だ。発電所が停止されているため、自分で必要な電力を供給することはもはやできない。
1時間は物事はうまく進んだ。複数の緊急ディーゼル発電機のうちの1つが必要な電力を供給するために作動させられた。その後、津波が襲った。発電所設計時に想定されていた津波よりもより大きいものだ(上記のとおり5倍だ)。津波は全てのバックアップのディーゼル発電機を破壊してしまった。
原子力発電所を設計する際に、設計者は"Defense of Depth"と呼ばれる哲学に従う。これは、まず想像しうる最悪の大惨事に耐えうるようすべてを設計し、さらにその上で、(そんなことが起こりえるとは信じられない)各システム障害が発生しても対処できるように設計するというものだ。高速の津波による打撃が、全てのバックアップ電力を破壊することもそうしたシナリオの一つだ。最終防衛ラインは全てを第三の格納容器(上述)の中に閉じ込めるということだ。第三の格納容器は、全てが混在していても、制御棒が入っていても出ていても、炉心が溶融していてもいなくても、全てを原子炉の中に封じ込める。
ディーゼル発電機が故障した際、原子炉のオペレータは非常用バッテリパワーに切り替えた。バッテリはバックアップのバックアップの一つとして設計され、8時間にわたって炉心を冷却する電力を供給する。そしてそれはなされた。
8時間以内に別の電力源を発見し、発電所につながなくてはならない。電力網は地震によってダウンしていた。ディーゼル発電機は津波によって破壊された。そこで可動式のディーゼル発電機が投入された。
物事が悪い方向に進み始めた。外部発電機は発電機に接続することが出来なかった(プラグが合わなかった)。そこでバッテリが枯渇した後は残留熱を取り除くことができなくなった。
この時点で発電所のオペレータは「冷却喪失イベント」のために用意された緊急プロシージャに移行し始めた。これは"Depth of Defence"の一つのラインに沿ったものだ。冷却システムの電力が完全に失われることはあってはならない。しかし、そうなったとき、次の防衛ラインに「後退」する。我々にはショッキングに思えるが、これら全ては、オペレータとしての日々のトレーニングの一部であり、炉心溶融を管理することも同様だ。
現時点において炉心溶融について様々な議論が開始している状態だ。今日の終わりには、冷却系が復活しなければ、炉心は最終的に溶融するだろう(数時間か数日後に)。そして、最終防衛ラインであるコアキャッチャと第三の格納容器がはたらくことになる。
しかし、現時点において目指すべきは、熱を放出している炉心を管理し、技術者が冷却系を修復できるまで可能なかぎり長い間、第一の格納容器(核燃料を格納するジルコニウムチューブ)と第二の格納容器(我々の圧力釜)が無傷で機能し続けるように管理することだ。
炉心の冷却は極めて重要なので、原子炉はそれぞれの形で複数の冷却システムを有している(原子炉冷却材浄化設備、崩壊熱除去、原子炉隔離時冷却系、非常液体冷却システム、緊急炉心冷却装置)現時点ではこのうちのどれがうまく行かなかったのか、成功したのかは明らかではない。
ストーブの上にある我々の圧力釜を想像してみよう。熱は低いが電源は入っている。オペレータは、あらゆる冷却システムの能力を使って可能なかぎり熱を除去しようとする。しかし圧力が上昇し始める。現在の1stプライオリティは、第二の格納容器である圧力釜と同様に、第一の格納容器の完全性を確保することだ(燃料棒の温度を2200℃以下に保つ)。圧力釜(第二の格納容器)の完全性を確保するためには、圧力を時々逃がしてやる必要が有る。非常時に圧力を逃がす能力は極めて重要なので、原子炉は11もの圧力逃しバルブを有している。オペレータは圧力をコントロールするために時々蒸気を放出し始めた。この時点で温度はおよそ550℃となった。
これが放射能漏れに関するレポートが入ってきたときに起こっていたことだ。私は蒸気放出が理論的に環境への放射性元素の放出と同様であること、なぜそうなのか、それが危険ではないことを説明してきた。放射性窒素は希ガスと同様に人の健康に害を与えない。
蒸気放出のどこかの段階で爆発が発生した。爆発は第三の格納容器(最終防衛ライン)の外の原子炉建屋で起こった。原子炉建屋は放射能を封じ込めるのに何の機能も果たしていないことを思い起こして欲しい。まだ何が起こったかは明らかではないが、次が考えられるシナリオである。オペレータは蒸気放出を圧力容器から直接環境中にするのではなく、第三の格納容器と原子炉建屋の間の空間に行おうとした(蒸気中の放射性元素が安定するための時間をより確保するため)。問題はこの時点で炉心が高温に達していたことで、水分子が水素と酸素に分離し、爆発性混合物になっていたことだ。そしてそれが爆発し、第三の格納容器の外側、原子炉建屋にダメージを与えたのだ。これは爆発の一種ではあるが、チェルノブイリの爆発をもたらしたような圧力容器の内部の爆発ではない(設計が不適切でオペレータにより適切に管理されていなかった)。これは福島では起こりえないリスクだ。水素-酸素反応の問題は原子力発電所を設計するときの考慮点だし(ソビエトの技術者でなければの話だ)、格納容器の中でそのような爆発が起こりえない方法で、原子炉は建築され運用される。外部で爆発が生じることは、意図的なものでは無かったとしても、起こりうるシナリオで問題ない。なぜなら、それが格納容器に対するリスクとはならないからだ。
蒸気を放出することで圧力がコントロールされる。圧力釜が沸騰を続けているならば、次の問題は水位がどんどん下がることだ。炉心は数mの水で覆われ、炉心が露出するまでしばらくの時間猶予がある(数時間か数日)。燃料棒の上部が露出し始めると、露出した箇所は45分後に2200℃という臨界温度に達する。これは第一の格納容器、ジルコニウムチューブが破壊されたことを意味する。
続いて次が起こり始めた。燃料の覆いに対してある程度の(非常に限定的だが)ダメージが生じる前に冷却系を回復させることは出来なかった。核燃料それ自体は未だ健在であるが、それを覆うジルコニウムの被覆が溶け始めた。今起こっていることは、ウラン崩壊の副産物のいくつか──放射性セシウムとヨウ素──が蒸気に混ざり始めたということだ。大事な点として、酸化ウランの燃料棒は3000℃まで大丈夫なので、ウランは未だコントロール下にあるということだ。ごく少量のセシウムとヨウ素が大気中に放出された蒸気の中から検出されている。
これはメジャープランBの「GOシグナル」のように見える。検出された少量のセシウムによって、オペレータは、燃料棒の一つの第一の格納容器のどこかが破られたことを知る。プランAは炉心への正規の冷却システムを回復させることだった。なぜ失敗したかは明らかではない。一つの考えうる説明は正規の冷却システムに必要な純水が失われたか汚染されたということだ。
(つづく)